トリップ と ディック

スキャナー・ダークリー
監督・脚色:リチャード・リンクレイター
原作:フィリップ・K・ディック
出演:キアヌ・リーブス
   ウィノナ・ライダー
   ロバート・ダウニーJr.
   ウディ・ハレルソン 他
2006年/アメリカ/100分

少々前に観たけど感想を書いておこうかと、ていうか書こう書こうと思いながら今週やたら眠くてバタンキューでした。冬季鬱病か? やたら眠くて、食欲は旺盛であるのだよなぁ。


で、フィリップ・K・ディックの『スキャナー・ダークリー』ですよ。
キアヌ・リーブスウィノナ・ライダーといった結構名の知れた俳優を使って実写を撮り、それをわざわざ2次元アニメーションに加工したなんとも不思議な作品。原作がディック御大なのでいそいそと観にいったんですがね。


“覆面”麻薬捜査官である主人公が、いわゆるミイラ取りがミイラになってしまい、麻薬に溺れてしまうわけです。捜査官である自分がラリった自分を監視するという変な状況に陥ってしまうんですが、麻薬の影響で自分が監視している自分が自分ではないと思ってしまい、混沌としてくるといった感じのお話。

はっきり言って映画だけ観ると分かりにくいよね、これは。100分内に何とか収めたことを評価したほうがいいのかなぁ。なんかどうやっても分かりにくい話になりそうな気がするし。……でもやっぱり微妙な感じかな。


原作の酔った連中のダラダラした会話はイイ感じに表現されていたと思うし、ロバート・ダウニーJr.のイヤな奴っぷりはなかなかのものだったけど、この映画ではそのくだらない会話にオチが無いんだよね。原作小説ではそんなことないんだよ。自転車のギアのネタなんか、分かんなかったらそのままになっちゃうと思うんだけど、何を狙ってオチを語らなかったんだろう? 主人公たちが通りがかった青年にギアの説明を聞いた後に、ぼんやりときまり悪そうにスゴスゴと部屋に戻る微妙な雰囲気の連中を観たかったんだけどね。なんだかなぁ……という感じ。
 

結局このアニメーションも、“スクランブルスーツ”のみを表現したいだけに感じてしまいましたよ。まぁ確かにスクランブルスーツはなかなか。顔を覆ったスーツ越しに食事したりしてましたが些細なことですね、そんなこと。
アニメ化したせいで自動車の車輪が回っているように見えず、車が滑っているように見えたりけっこう微妙。どうもアニメ化したからこその効果ってのが見えてこなかったかな。面白い試みではあるし、それはそれで楽しめましたが。


そもそも『ウェイキング・ライフ』を劇場で観た時に、ぐーすかぴーと寝てしまったので不安は大きかったんですよ、今作。物語があったんで助かりましたね。まぁ眠くはならなかったですよ。
リベンジということでその『ウェイキング・ライフ』借りて観てみたんですが、やっぱり寝ました。すまぬすまぬ。

で、『ウェイキング・ライフ』ですが、こちらも実写を2次元のアニメに変換する手法。イーサン・ホークスティーブン・ソダーバーグなんかもチラッと出演しています。内容は哲学的といった感じ。だからこそ眠気を誘うのですが。
あ、この作品でディックの『流れよわが涙、と警官は言った』に言及してるね。『スキャナー・ダークリー』も満を持しての作品だったのかな。

スキャナー・ダークリー
著者:フィリップ・K・ディック
訳者:浅倉久志
ハヤカワ文庫


『暗闇のスキャナー』
著者:フィリップ・K・ディック
訳者:山形浩生
創元SF文庫

例によって映画を観る前に原作を読みました。浅倉久志訳の『スキャナー・ダークリー』です。『暗闇のスキャナー』はけっこう前に読んでるんだけどあんまり内容を覚えてませんでした。映画を観る前に読んでおいてよかったですよ。


電車の中で読んでいて吹き出したのがこんなところ。

「いや、ちがう。伝説はどんどんふくらんでいくもんだ。二、三世紀すると、みんながこういいだすぜ。『ご先祖さまの時代、ある日、すごい上物のアフガニスタン・ハシシでできた身の丈三十メートル、八兆ドルもの値打ちの人形が、ポタポタ火を垂らしながらやってきて、こうさけびました。“死ね、エスキモーの犬ども!”。そこで先祖たちは槍を持ちだしてそいつと長い長い戦いを続け、とうとうそいつを殺しましたとさ』」

それが山形浩生訳のほうだとこんなの。

「いや、ホレ、伝説ってだんだん誇張されてくじゃん。何世紀かすっと、そいつらこんな話してるよ。えーと、『わしのご先祖さまの時代のある日、身の丈三十メートルで八兆ドル相当の超高級アフガニスタン産ハッシシのかたまりが、炎を滴らせ、「死ね、くそエキスもーどもめ!」と絶叫しながらわれわれに向かってきたんじゃ。わしらは戦い続けて、ようやくそいつをしとめたんじゃよ』」

なんとなく『暗闇のスキャナー』を掘り出してきて比べてみましたが、訳者によってけっこう違うね、やっぱり。こういうことしたとありませんが、いろんな作品で比べてみると面白いかも。原作を読むなら山形浩生訳の方が会話のダラダラ感が出ていていいかもしれないかな。サンリオのは持ってないので知りません。あと、このくだりは映画ではカットされていたので残念でした。


まぁ、画が観れるので映画も楽しめますが、やっぱり原作を読んでいる身としては物足りないところ。
しかし、黒髪でヤク中で盗癖のあるヒロインの役がウィノナ・ライダーということで楽しみにしてたんですけどね……がっかり。ところで髪の地色はなんなんでしょうか?

『ウェイキング・ライフ』
ホントに現実を見ながら夢を見れます。