硫黄島 と 兵士

硫黄島からの手紙
監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙
   井原剛志
   二宮和也
   加瀬亮 他
2006年/アメリカ/141分

なにが悔しいかといって日本でこんな戦争映画を今まで撮ることが出来なかったということですよ。あっけらかんとただの国家どうしの殺し合いを描いて、単純なお涙頂戴に流れない戦争映画。説教臭くも無く、押し付けがましさも無く、殺したり殺されたり生き残ったりする人々がスクリーンに現れる。
高揚感も悲壮感も無いのがいい感じ。まぁこんなもんだよ、人生って。


というわけで観たのが『硫黄島からの手紙』。日本から見た硫黄島ってやつですよ。
しかし自国が負けた戦争を度々映像化したりされたりしては、その度にいちいち感動している日本って変な国なんじゃないかと。なんか外から見たらオナニーっぽくて気味悪いんじゃないかとさえ思う。どう思われてるんだろう、実際のところ。

日本はあの戦争を変な方向へ美化していったのがマズかったんじゃないか? 結果だけを語り継いでいるようなところがさ。


日本側の視点ってことですが、あの絨緞爆撃はイヤだね。圧倒的。ホント勝てる気がしねぇ。荒涼とした風景。海を埋め尽くすほどの艦隊が見せつける歴然とした戦力差。水も弾薬も無くなる絶望感と無力感。どうやって耐えたんだろうかと思うと、なんか呆然としてしまいます。

登場人物は思っていたより魅力的でした。そういえばバロン西って硫黄島にいたんだよなぁ、と映画を観て思い出したり。渡辺謙の存在感や井原剛志の清々しさはイイ感じ。二宮和也はちょっと儲け役かな。結婚して子供がいるような役だったのが意外でした。

映画を観た後、細かいところを知りたくなりましたよ。
硫黄島の戦い - Wikipedia
栗林忠道 - Wikipedia
西竹一 - Wikipedia

父親たちの星条旗』に比べると、とっても単純な構成の映画でした。ちょっと驚いたですよ。プロローグが現代だったんで、前と同じように過去語りみたいな感じになるのかと思ったんですが、フツーに戦争が進行していきましたね。栗林中将が硫黄島に着任してから没するまでの話。

兵士たちの戦後の人生までもいちいち描いた『父親たちの星条旗』にくらべると随分あっさりしてましたね。

でも、アメリカの戦後から語られる、俺たちは英雄なんかじゃなかったんだ、っていうのと、日本の戦争中を描いた、そんな最中に良いも悪いも考えられねぇよ、ってのがちょっと面白い対比でした。2作品をあわせて思うとなかなか巧く構成されてますね。これはやっぱりどっちも観ておいたほうがいいんじゃないかと。


父親たちの星条旗』では戦争で生き残ったのが父親で、『硫黄島からの手紙』では戦争で命を落としたのが父親。
アメリカでは手紙は兵士に送られ、日本では兵士が手紙を送る。
両方とも国威のための旗が揚げられる。
硫黄島の戦い、ということ以外ではあまりつながりのない作品に見えましたが、やっぱり巧くできてるね。


同様なのは、抗いきれない大きな流れに翻弄される個人が、必死に信念のもと折り合いをつけながらも生きていこうとする姿が描かれているところ。戦争を通して描かれることでそれが際立っていますが、特殊な状況だったからということではなく、今の自分に置き換えてみることが大事だなと思ったりしました。


まぁしかし、こういう映画を観れば観るほど、戦争を経験してない自分が何かを語る資格、戦争の無い世界を願う資格すら無いような気がしてきます。