試練 と 有用性

マルドゥック・ヴェロシティ
全3巻
著者:冲方丁
ハヤカワ文庫JA

サイボーグ009』の方々に割り振ってみようと思ったけど半分くらい上手くいかなかった。


まぁ……やっぱ期待はしすぎていたかもしれない。
3週間連続刊行ってのも、3ヶ月連続刊行の前作と比べると、1ヶ月待たせて尚満足させる力は持っていないという判断だったのでは、という穿った感想も持ってしまう。
これは勝手な価値観だけど、ライトノベルのレーベル出ていたら質の高い作品だと感じたと思うんだけど、ハヤカワ文庫で読むとどうも……。


という『マルドゥック・ヴェロシティ』の3冊の簡単な感想。
面白いですけどね、読みにくいですよね、これ。

童顔=茶目っ気たっぷりの笑顔/短いブロンド/シャツをまくった肩に、陸軍機甲歩兵が好みそうなドクロの刺青。

空間の一部が歪む/何かが身を起こす――にわかに大きな犬が現れる。

数式か!
いや、分かるけどね。フツーの文章じゃいけなかったのかなぁ。「空間の一部が歪んで何かが身を起こしたと感じた瞬間、大きな犬が現れる」とかじゃまずいのかな?


冲方丁だから敢えて思うけど、こんな作品こそさっさとアニメでやったらいいのに。『マルドゥック・スクランブル』をアニメ化する前にさ。並列記法とでもいうの? これ。映像のように画的な情報を文字で素早く渡したいという意気込みは分かるけどさ、別に小説でやんなくてもいいじゃん。
冲方丁なら漫画やアニメなんかの小説以外での作品の発表手段があるんだからさ、ね。先にアニメ化でもして、アニメで説明し切れなかった裏設定なんかを上手く物語りに盛り込んだノベライズを後から発表したほうが良かったんじゃないの?


そうだよね、物語の途中でもっと上手に事件の真相を語ることはできなかったのかしら。なんか日ごろの掃除をサボっていたせいで、年末に慌てて大掃除をしましたっていう印象の最終巻終盤。はっきりいってこの作品を読んでいて、オクトーバー一族とかネイルズ・ファミリーの家庭の事情なんかにさっぱり興味は持てなかったんだけども。それはもう、いっそのこと掃除なんかしないで年を越してしまってもいいんじゃないの、と思ったくらいに。スピンオフっぽい小説とかアニメ化した時とか“マルドゥック市完全読本”とかで語ってくれても良かったよ、こんな細かなこと。


全体的に消化不良というか、どうでもいい感じ。


戦闘中に死ぬのはカトル・カールの変態ばかりで、09の面々は適当ないざこざで散っていってしまうしね。“サイボーグ忍法帖”みたいなものを期待してしまったのがいけなかったのかもしれないけど、これだけ戦闘シーンがあるんだからもう少し肉弾戦によったドラマの進行があってもよかったと思うよ。
なんか戦闘がね、キャラ紹介のためだけにあるような感じなんだよね。キャラ小説としては正しいんですが。なんか見開きにカラーページを用意して『ロードス島戦記』のような登場人物紹介の絵を乗せないのが不思議。昔の日本人作家のハヤカワ文庫って巻頭にカラーページあったのにね。寺田克也のジョーイやクルツを見たかった。


とまぁ文句たらたらですが、そこそこ楽しく読んだのも確かでして。
登場人物は魅力的で、ボイルドとウフコックの希望と挫折だけの物語だと割り切ってしまえばこれはこれでいいんじゃないかとも思います。ナタリアもクリストファーもラナもフリントもニコラスも末節の賑やかしとして割り切ってしまえばね。
キャラ萌えを求めようにもこの作品で消えてしまう方々が多くて困ってしまうんですが。


でも、あまりにもボイルドとウフコックがぶれないところが、不満でもあり満足でもある微妙な感じ。


あとイヤだったのが、あとがきで苦労自慢をすること。
そんなことどこかのインタビューとか対談とか、それこそ“マルドゥック市完全読本”とかでやってほしい。『バスタード!』なんかもあのコミックスのあとがきの弱音が鬱陶しくなって読むの止めちゃったからなぁ。だからどうしたつまらなければどれだけ苦しんだって関係なんだよっていうか苦しんだことをアピールすれば同情して楽しんでもらえるとでも思ってるのかとか不快なことを思ってしまう。
今度からはちょっと控えてほしいですよ。


この作品の有用性は次の作品で試されるのかな?



http://mardock.jp/
ニュースもまったく更新が無く微妙な感じ。
ていうか寺田克也ではなく村田蓮爾がキャラデザなのも微妙だし、バロットが林原めぐみなのも微妙。それよりなにより制作がGONZOかよ。
期待はしないほうが吉かな。


冲方丁×ソエジマヤスフミ×村濱章司(全五回、第一回)
マルドゥック・スクランブル』のアニメは“ラブロマンス”らしいですよ?
さらに微妙な感じ。