執着 と 狂気
傾城というかファム・ファタルというか。
性愛的要素はあまり感じられませんが、ある美貌の男のために身持ちを崩す2人の男の話ですね。
そんな『王の男』を観ましたよ。
パンフレットに岩井志麻子が「桁外れの破格の悪女」とか書いていたので、思うところは同じようなものなんだなと。この美女と見紛うような男が情が深い上に、これがまた天然でして。自覚がない分罪作り度が増すわけですよ。こういう人物に振り回されるんだよね、人って。
「あーもう 一番のガンはこのこだよっっ」
「自覚がないっつーのがまた困るのよねぇ」
って感じ。
困るよね、憎めないから。
16世紀初頭の韓国。芸人が政争に利用された上に、時の王である燕山君に気に入られてしまい、その芸人たちがあたふたする話。
つまんなくは無いけど、どうもストーリー進行が強引だ。山の天辺で唐突に盲を笑いものにする芸が披露されて呆然としたんですが、まぁ最後のほうに繋るんですね……なるほど。それに、クライマックスでむさくるしい方の主人公が何故綱渡りをすることになるのかもよく分かりませんでしたし。ああいったシーンを撮りたかったのは分かるんですけど、もう少し自然に組み込めなかったのかね。なんかあからさまで気分が萎えますな。
でも、おおむねの物語は興味深く楽しめましたよ。無自覚な男が男を振り回すというね。もしかしたら腐女子大喜び? って気もしましたが、欲情が無いのでそうでもないのかな。妄想でカバーできるのかもしれませんが。
その振り回される男の片一方、燕山君の狂気がとてもいい感じ。この狂いっぷりが案外理解しやすく演出されているのがいいなぁと。きっと芸人の2人が主人公なんだろうけど、この王様のほうが格段に深みが感じられる。顔を見るだけで、こいつはアブねぇ、と危機感を抱かせるチョン・ジニョンの演技は見事ですね。芸人たちがこの王を持て余す演出もいい感じ。イタタタタ……って。
王がおかしいのか重臣たちが悪いのか、いまいちハッキリしないところも良かったのかなと思いましたよ。
しかし、韓国映画でときどき見かける、あの食事の汚さってどうにかならないのか?
『ハチミツとクローバー』5巻離れられない理由なんてこの痛みひとつでじゅうぶんだということ――