女 と ホラー

『コワイ女』
2006年/日本/107分

『カタカタ』
監督・脚本:雨宮慶太
出演:中越典子
   小林裕子
   豊原功輔 他

『鋼−はがね−』
監督・脚本:鈴木卓爾
原案・脚本:山本直輝
出演:柄本佑
   菜葉菜
   香川照之 他

『うけつぐもの』
監督・脚本:豊島圭介
原案・監修:清水祟
出演:目黒真希
   須賀健太
   松岡俊介
   左時枝 他

ホラーのオムニバス、『コワイ女』を観たよ。
“コワイ”女ってくらいなので、怖い女が出てくる3作品。まずはそれぞれの感想でも書いてみる。


『カタカタ』
ある女性が状況もよくわからないまま奇怪な女に追いかけられて逃げまわる話。
なんかもうこういう話は食傷気味というか、よほど奇抜なアイデアでもなければ楽しめないな。『座敷女』とか『リカ』とかさ、人間の女だって怖いんだから人外のものならもっと何かねぇ。どうしても『リング』系の量産された作品が思い浮かぶんで、もう少し工夫がほしいところ。
監督が『ゼイラム』なんかの雨宮慶太ということで、その女の造詣は凝っていたというか、ラストシーンのアップだけはとても印象深かったですよ。首が伸びるところは怖いというより笑ってしまいましたけどね。予想していなかった動きにビックリすると同時に笑ったね、あれは。
しかしちょっと古い感じか。主演の中越典子が力いっぱい逃げ走るわけですが、角を曲がったりするたびに追いかけてくるコワイ女の姿が見えるまで律儀に待っていたりするのはどうかと。
そして中越典子が主演のそのうち映る『1303号室』とシチュエーションがちょっと似ているところもどうかと思いましたよ。


『鋼−はがね−』
ズタ袋を被った奇妙な女の子とデートして深みにはまってしまった男の子のはなし。
これはシュールなギャグ漫画のような笑えて怖い話でしたよ。駕籠真太郎とか唐沢なをきとかがこんな短編漫画を描いてそう。
なんていうかレザーフェイスを萌えキャラにしたらこんなホラーになるのではないかというような感じ。物陰に隠れて照れながら吹き矢を撃ってくる女の子に萌えますよ?
しかしまぁズタ袋をかぶったまんまの菜葉菜が素晴らしいのではないかと。『Vフォー・ヴェンデッタ』のヒューゴ・ウィーヴィングなみ。いや喋らないんで菜葉菜の方が上かも。スキップとか川に流れるところとか良かったなぁ。


『うけつぐもの』
田舎に引っ越したことで変わってしまった母親に怯える息子の話。
これは雰囲気重視の話。悪くないけどオーソドックスかな。『カタカタ』もよくある感じだったけれども、スピード感がない分微妙な感じか。まぁ短編なんで大丈夫ですけどね。
怪談って感じの作品なんで、家の中を逃げ回るシーンなんかは逆に雰囲気に合わなかったかもね。作品の尺を稼ぐために入れたのかなぁと思ってしまいましたよ。あと、もう少し掛け軸に由来があったら良かったかなと。
しかし須賀健太くんはいつも須賀健太だな。


という3作品。
食べたいほど愛してる、とか、殺したいほど愛してる、っていう感じの2作品に比べると『カタカタ』はちょっと流れに乗っていない作品かな。愛が無い。“直球ホラー”はいいんですけど、ちょっと異質な感じ。
でも3つともタイプが違っていてそれぞれ楽しめましたよ。最初にアクション的な観慣れたホラーを持ってきて、次に奇妙で一風変わった短編ならではの作品。そして最後に正統的な怪談っぽいものを持ってくる組み立ては巧いなぁと。

ま、女は怖いね、っていうことで。


次は『ユメ十夜』に期待かな。

「ダーウィンの悪夢」アフリカのイメージ壊す

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061206-00000055-sph-ent

いやいや、NHKのBSで放映しちゃってるじゃん。何を今さらって感じですが。
ホント、うんざりするというか、この底の見えない絶望感を味わうために、みんな観とけ。人間ってこんなものかと。

知らないところで関わってるんだよね、日本。

2006年 年間ベストセラー発表

http://www.tohan.jp/tohan-news/06-12-05.html

あはははは。
スト20の中で読んだ本、1冊も無いよ?
“文芸”部門ならどうかと思ったんだけど、ベスト10の中のどれも読んでない。
“新書−ノベルス”部門でかろうじて2冊。まぁ言わなくても何を読んだか分かるよね?

劇場で映画館だけの限定っぽいCMを観たよ。
麒麟淡麗<生>”の坂口憲二高田純次八嶋智人の3人に加えて麿赤児が出てるやつ。
ウェブサイトをのぞいたら、なんだ「バス停」篇とかいって麿赤児の出てるやつ公開してるじゃんかよ、とがっかりしながら観てみたんですけど、映画館のとは違ったね。
別にそれほど面白くないけど、観たい人は映画館へ。

http://www.kirin.co.jp/brands/TR/cm/


それと、あのなんかイヤな感じのする“海賊版撲滅キャンペーン”が最近変わりましたね。露骨な髑髏をこれ見よがしにするわけでもなく、ガラッと変わって五月女ケイ子のイラストで。
ちょっとどうかなとも思いますが、まぁ前よりはいいかな?

http://www.jimca.co.jp/som/index.html
KEIKO SOOTOME

ゆめ と うつつ

『パプリカ』
監督:今敏
原作:筒井康隆
声の出演:林原めぐみ
     江守徹
     古谷徹
     大塚明夫
     山寺宏一 他
2006年/日本/90分

めくるめくイメージの奔流。
そんな『パプリカ』を観ました。
精神治療のために開発された他人の夢を共有できる装置が盗まれた。その未完成の装置が悪用され、他の人が見た悪夢が私の夢に忍び込んでくる。そして現実をも犯していく。


すげー堪能いたしました。
ジャパニメーションのカルトな部分の集大成といった感じ。観ている途中に『千年女優』は当然、『AKIRA』とか『もののけ姫』とか『新世紀エヴァンゲリオン』とか『マインド・ゲーム』とか『イノセンス』とか『頭山』とかいろいろ思い出しましたよ。


いやぁ、アニメって素晴らしいなと。
今年はいろいろ劇場アニメをやりましたけど、やっぱりアニメらしい作品が良いよ。『ゲド戦記』やGONZOの作品が肌に合わなかったのはアニメっぽくなかったからんだよな。アングルやキャラの動き、あのカットのまんま実写に変られるような作品。まぁハリウッドじゃないから仕方ないのかもしれないけど、アニメの意味無いよね、あれじゃ。
それに比べると『時をかける少女』はアニメらしくて良かった。そして今回の『パプリカ』も。鮮やかな色彩と躍動感、不自然さも自然に見せられる力。アニメ万歳ですよ。ていうかマッドハウスすげー。


林原めぐみ古谷徹大塚明夫、そして山寺宏一と声優も磐石の布陣。この安心感は代えがたい。舞台で活躍するような俳優ならともかく、タレントなんかが主演と聞くと期待していた作品ほど不安になるからなぁ。
江守徹はいいよ、うん。『東京ゴッドファーザーズ』のあの3人は良かった。


ストーリーも満足。あの原作をよく90分に組みなおしたなぁと感心。最初のほうでの所長が語る長めの電波台詞を楽しめたなら、あとは一気呵成。このシーンが分水嶺だね。
人形たちが一斉にこっちを向く、巨大な顔が窓から覗く、そんな怖気立つ風景の中を軽やかに活発に駆けていくパプリカ。ホラー的な描写に突拍子の無い画を突っ込ませることによって漂うユーモア。重くもならず軽くもならず、異質な世界が次々と紡ぎだされていく。そして世界を覆う不随な悪夢さえも覆いつくす意思である愛。凄すぎて笑えてきましたよ、久しぶりに。


現実と夢の混じりあいが、そのまんま千葉敦子とパプリカの二面性に対応していて案外話も分かりやすいし。虚実の混淆を描いてきた筒井康隆の世界を見事に映画化したなと嬉しくなってしまいました。
そうそう、「映像化不可能と言われてきた」とかいう修飾はもう止めてくれないかと思う。だれがそんなこと言ったんだよ。『残像に口紅を』くらいのものなら言っても構わないけどさ。

『パプリカ』
漫画:萩原玲二
原作:筒井康隆
トラウマンガ・ブックス

で、映画の後に積んであったコミカライズしたものを読みました。小説はパラパラと再読。漫画と小説だいたい同じ話なんだよね?

書下ろし100ページという触れ込みの第2部が追加さて復刊したものですが、こんななら第2部いらなかったんじゃないという端折り具合。ハリー・ポッターの映画より酷いね。著者自らダイジェストとかいいやがるので救いようが無いというか、出さなくてもよかったんじゃないの?
それに第1部と第2部で絵柄が変わっているのはいいんですが、第2部が山本貴嗣っぽくて笑えました。何でだろう?

巻末に対談が載っているので興味がある人はどうぞ。筒井康隆が夢をメモしていたというくだりを読んで、また『脳天気教養図鑑』思い出しました。なんかこの漫画のどうでもいい知識ってやたらと頭に残っているなぁ。何でだろう?


次のアニメ化は『旅のラゴス』とかか?


あと、オフィシャルサイトが凝ってました。結構気色悪かったですよ。
いちおう壁紙手に入れましたが、作品のカットを切り出したものばかりってのは物足りないですよ。
http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/site/home.html


あ、あと、映画は劇場で観ろ、っていうメッセージがあったのかも。

『パプリカ』
原作ですよ。読んどけ。

一人 と 二人

『暗いところで待ち合わせ』
監督:天願大介
原作:乙一
出演:田中麗奈
   陳柏霖
   佐藤浩市 他
2006年/日本/129分

なんていうか、この作品で2時間強は無いだろう、と。
不思議と退屈を感じることは無かったんですが、主人公たちの内面をほとんど語らずに、雰囲気の演出だけでよくやったものだと感心。『紙屋悦子の青春』を思い出したり。


というわけで『暗いところで待ち合わせ』を観た。
一人暮らしをしている視覚障害者の若い女性と、眼が見えないのをいいことに彼女の家に内緒で上がりこんで居座っている殺人容疑者の若い男との不思議な共同生活。人を避けて孤独に生きてきた2人を描いた物語。


小説読んだのは結構前だったので、こんなミステリな話だったっけかとビックリ。なんか『恋愛寫眞』くらいビックリしました。覚えてなかったなぁ……写真を見たところで思い出したんだけどね。そうそう、こんなだったと。


原作の淡々とした静かな生活を上手く映像にしていると思うんだけど、必要だったのかな、この長さは。でも過去のエピソードが全くカットされているんだよなぁ、ちょっとこれはツラいな。主人公の2人の深い孤独感はその過去があってこそなんだけど。そのあたりがイマイチ伝わらなかったので、案外軽い感じに見えちゃったかな。
特に男の方の、中国人とのハーフだからってそのあたりを省略しちゃったのは、ちょっと安易すぎ。乙一の小説の映像化を観に来る若い男の客に対する配慮が欠けてるね。同じ人間(日本人)なのにずっと馴染めなかった、ってところは大事なのに。

男は原作どおりのキャラクターのほうが良かったと思います。今ちょうどイジメとか問題になってるし。なんでわざわざ変えたんだろう。

『暗いところで待ち合わせ』
著者:乙一
幻冬舎文庫

パラパラと小説読み直しました。ざっとストーリを追っただけですけど。
展開はほぼ同じですね。

その主人公の2人は田中麗奈と陳柏霖。もう田中麗奈には文句をつけようが無いね。あんまり喋らなくても、アップばっかりでも全然大丈夫。役の幅も広いし女優って感じだ。
で、チェン・ボーリン。『幻遊伝』で田中麗奈と既に競演しているって……あの薬局の店員か?
しかしこの男、必要以上に田中麗奈に接近するので、ギリギリマスターかと笑ってしまったんですけどね。もっと離れてればいいじゃんって。ていうかそんなスリルいらないでしょ、この作品に。


佐藤浩市井川遥岸部一徳と脇を固める俳優はしっかりしているので安心。音を少なく静かにすることで、視覚障害者の生活を表現していたのは巧いと思いました。乙一の雰囲気も出てるし。


まぁだけど、これはちょっと小説の方に分がある感じ。流れも自然だしね。
過去を語らずお父さんを長々と出したあたりも選択を間違ったような気がするし。


コミカライズされたものもありますが、あれはただ漫画化しただけなので、文章を読みたくない人が読めばいいと思います。


そのうち乙一は映画監督に進出かな?

http://www11.ocn.ne.jp/~tcinefes/MMIV/concour3.htm
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061126-00000073-sph-ent

恋愛寫眞
けっこう面白かったんだけどね、これ。