役割 と 関わり

紀子の食卓
監督・脚本:園子温
出演:吹石一恵
   つぐみ
   吉高由里子
   光石研 他
2005年/日本/159分

2時間半の長丁場もなんのその。それだけの深さはありました。大量のモノローグにも圧倒されます。
この前観た『テキサス・チェーンソー』の変態一家の食卓もインパクトはありますが、このクライマックスの一見普通な“紀子の”食卓はすさまじく底冷えします。


自殺サークル』の続編という位置づけですが、観て無くても大丈夫というか、観てないほうがいいかも。『紀子の食卓』を観て興味を持ったら観てみたらいいんじゃないかな。しかしあれの続編でこんな話が出来上がるとは思ってもみませんでした。
ある日家出する長女。
長女と駅で出会うネット友達。
続いていなくなる次女。
やっと探しに出かける父親。
この4人それぞれの、自分と他の3人との関わりが描かれていくホームドラマ。いちおうバックグラウンドとして、“廃墟ドットコム”というウェブサイトと、自殺者の急増から浮かび上がる“自殺サークル”の存在というものがあるんですが、しかし上手に組み入れたなと感心します。


ホームドラマ、と書いてフランソワ・オゾンを思い出した。
あの監督の作品も変というか、登場人物同士の奇妙な関係を描くことが多いので、ちょっと似てるかも、いやそんなことはないかと思ったり。


自分の見ている世界と他人の見ている世界は、同じものでも違って見えているんだろうとは思っていましたが、こんなふうに見せつけられると、これは怖い。よく平気で生活できているよな自分と思いますが、オトモダチを増やしたいという若い感情は恐怖を隠そうとする巧いシステムなのかもしれません。
他人の心なんか分からないのに、一人では生きていけないとかいう。人間って面白。
その辺りの折り合いをつけられずに自分探しをした結果、変なものを見つけてしまったことから始まるのがこの作品なのかな。“レンタル家族”により家族と自分の分解と再構築がなされるシーンは圧巻。最後も、その先その先を描ききったところが見事。
なかなか歪で悪趣味で興奮させられる作品でしたよ。


古屋兎丸の演説は浮いてたかな。『自殺サークル』とつなげるために必要だと考えたんでしょうが。そしてやっぱりエヴァを思い浮かべてしまうんですが、なんか前にも同じことを思ったシーンのある作品あったな。なんだったっけ。


上映後、園子温監督のトークがありました。
おや、また“ミツコ”かと思ったんですが、“ミツコ”ってのは監督の初恋の人の名前らしい。それ以外に特に意味は無いそうですが、初恋の相手を無茶苦茶にしたい欲求でもあるんだろうか。『奇妙なサーカス』を観たときは、甘詰留太かっ、と心の中でつっこんでましたからね。

あと、豊川に海が無いのは分かっていて撮っているようのでつっこまないように。

しかし1週間しか公開しないのはもったいない。時間も長いし一般向けしなさそうだからしかたないのかな。


さあ、来月は『HAZARD』だ。

自殺サークル
後で観たらこれにも“ミツコ”が出てた。