犯因症 と 観相官
出た。ロンブローゾ。
容貌からその人の性質が分かるってやつ。『脳天気教養図鑑』で初めて知ったんだよな、この人。“生来的犯罪人説”は今のところ擬似科学とされているそうですが、外見と性質の相関は、血液型よりよっぽどありそうな気がします。
というわけで、勢いに乗って引き続き久坂部羊の『無痛』を読みました。
外観や所作を見るとその人が患っているものを知ることができ、それが直るかどうかまで分かってしまうお医者さんが、事件に巻き込まれる話。見ただけで病気が分かるもう一人の医師にストーカーで病的な自己中男。自分が殺人事件の犯人だと訴える精神障害施設の少女に先天的無痛症の男。『廃用身』、『破裂』に続く著者の3作目にして、どんどんエンタテイメント性が高まってきています。
今回は完全に娯楽作品。でもあからさまにトンデモだったりオカルトだったりするような話ではありません、念のため。
謎より展開重視のこういうごてごてした作品は大好きです。でもちょっと荒削りすぎるかな。当然、刑法39条を絡めながらの展開になるわけですが、広げた風呂敷を上手く畳めていない感じ。『破裂』もそうだったんだけど、物語の片付け方がイマイチ上手くないですね。クライマックス以後はどうでもいいのかな?
ポテンシャルを発揮していないようなキャラが何人かいて、サトミをもう少しうまく使えていれば読後の印象はだいぶ違ったと思うんだけど、この辺りは続編に期待なのかも。続編なんか無いかもしれませんが。
スリリングな展開はうまくいっていて楽しく読みましたよ。娯楽作品に勢いは大切。
尖頭症というあからさまな設定を無くせばそのままハリウッド的なスリラー映画にできそうな感じ。過剰なグロテスク描写も悪くないんじゃないでしょうか。焼酎プリンとかの厭シーンが無かったらかなりぼやけた印象の作品になったんじゃないかなぁと。でもグロが突出しているように見えてしまうところが惜しいのかな。目指せレクターシリーズ。
そして最近このロンブローゾっぽい小説読んだなぁ、と思い出したのが『白い果実』。先月読んだんだった。『シャルビューク夫人の肖像』を買う前に積んであったこの本をひとまず読んでおこうと。
『白い果実』 著者:ジェフリー・フォード 翻訳:山尾悠子 金原瑞人 谷垣暁美 国書刊行会
人の身体的特徴を観測して犯罪者なんかを探し出す“観相官”が主人公の物語。傲慢で才気あふれる主人公が“白い果実”の捜索を銘じられたことから端を発します。3部構成になっていて、それぞれでかなり状況が変化するので内容の説明がしにくいな。
最初はなんだか『スリーピー・ホロウ』。具体的な誰かを当てはめて小説を読むことはめったにないですが、なんかずっと頭の中でジョニー・デップが動いてましたよ。ヒロインは特にクリスティーナ・リッチというわけでもなかったです。
山尾悠子の訳文だから、ってのは他の本を読んだことが無いので分からないけど、世界観とマッチしているなとは思いました。静かな狂気に溢れた世界の幻想的な雰囲気とか。この文体もあってか、けっこうありきたりなストーリーとガジェットもそれほど気にならなかった。全体的には面白かったですし。
一番の難はあまり読み応えを感じられなかったことかな。もっと文の量が多くてもいいので、描きこんで欲しかったなと。なんか表面を撫でただけな気分。展開が速いのも良し悪しだな。
スケールは大きいんだろうけど、なんかこじんまりした変な作品でした。
あと、“奇面フラッシュ”に笑ってしまったのは内緒。
あとがきを読んだら3部作の1作目らしい。もっと何か隠してるでしょ、と思わせるのが目的だとしたら上手かったなと思いますが、実際のところ続編を待つしかないのかな。
「最終巻には、『百年の孤独』に匹敵するほどの見事な仕掛けがほどこされている」そうなので。ていうか『百年の孤独』、ずーっとほこりをかぶったまま放置してあるので読まなきゃいけないな。
以下のサイトで訳者のコラムっぽいものが読めますよ。
金原瑞人 あとがき大全(38)
やっぱ、“世界ファンタジー大賞”よりは“世界幻想文学大賞”がいいなぁ。
で、『白い果実』の主人公が麻薬に耽溺していることが、久坂部羊の『破裂』につながったなぁということでシメ。