仙人 と 弟子

『僕僕先生』
著者:仁木英之
新潮社

今年もそういう時期ということで『僕僕先生』を読んだ。半月ほど前か。『闇鏡』も読んだけど、ひとまずこっちの感想でも書いてみる。
第18回日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作であります。


「美少女仙人とニート青年が天地陰陽をひとっ飛び!」
そんな煽りなんで現代の話かと思っていましたよ。どっかのライトノベルかよと。


舞台は唐代の光州無隷県。役人を引退した父親が結構な財産をもっているので、働く必要なんか無いな、とダラダラした日々を送っていた青年が仙人に会い、弟子入りする羽目になったことにより人生観なんかが変わっていくお話。
不思議な少女に振り回される世間知らずの男という、まことに正統的なボーイ・ミーツ・ガールものですな。しっかり恋愛感情も抱くし、ラストもさっぱりといい感じ。

少女の姿をした仙人と一緒に神仙の世界を旅をする万遊記といった感じの、さすがに仙人っぽくのんびりした物語。計り知れなかったり、めんどくさかったりするキャラクターたちが入れ替わり立ち代り現れては主人公を煙に巻いていくのがなかなかに楽しいです。


案外俗な仙人さまってのもありがちですが、不老不死を得ようなんてことじたい俗っぽさ極まりない気もしますので特にかまいません。いつもホラーやらミステリやらの斬った張ったの殺伐とした物語ばかり観たり読んだりしていますので、たまにこういう本をのんびり読むと気分がよくなりますね。

個人的には“日本ファンタジーノベル大賞”というとゴテゴテしてたりクドかったりわけが分からなかったり、濃い幻惑感が得られるものを期待してしまうので、ちょっと物足りない感じもしましたが、次はどんな作品を持ってくるのかと期待できる作品ででした。なんか出し惜しみしてそう。

『りえちゃんとマーおじさん』
著者:南條竹則
ヴィレッジブックスedge

ついでというわけではないんですが、そのあと『りえちゃんとマーおじさん』を読みました。
こっちは『酒仙』で第5回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞をとった南條竹則の作品。ヴィレッジブックスedgeとかいう気にもしてなかったところからいつの間にか出ていて、最近まで知らなかったよ。


小学3年生のりえちゃんが神さまや仙人や妖怪がうろうろする異次元に毎日のように通って名人マーおじさん作るの素晴らしい料理を食べては楽しみ学ぶ話。
楽しく美味しく、といった感じですかね。


この作品も主人公が仙人たちの住む世界で不思議なめにあって楽しんだり怖がったり驚いたりする話です。それで成長するわけですね。
仙人への道ってのは人間としての成長の道なんですかね。


この作品のキモは料理です。豪華絢爛、満漢全席。普通のチャーハンでさえ、

金色のご飯が胃の中に落ちると、あたたかさがフワッと背中にまでひろがって、大きな熊の縫いぐるみに抱かれているような感じがした。

なんかもうめちゃくちゃ旨そうですよ。
こういう美味しそうな本を読むと居ても立ってもいられませんな。ラーメンなんかを一人侘しく啜っている自分の姿が頭をよぎり叫びたくなってきますな。


ただ美味しいものを食べているだけではなくて、脳みそを食べられそうになったり地獄巡りをしたりと波乱万丈の陽気な冒険ファンタジー。けっこう食ということに関して肯けることが述べられているので、偏食気味な子供なんかに薦めてあげてください。

他人の食事にケチをつける人は罪が重いんです。

気をつけろよ、みんな。

『酒仙』
下戸でなくて嬉しい限り。
えっ!? 品切れ?

賭け と 勝負

『007 カジノ・ロワイヤル
監督:マーティン・キャンベル
出演:ダニエル・クレイグ
   エヴァ・グリーン
   マッツ・ミケルセン
   ジュディ・デンチ 他
2006年/
イギリス・チェコ・ドイツ・アメリカ/
144分

「こたえてくれ!! おいらの魂よ!!」


とか言ってほしかったわけでもないんですが、ポーカーが全然おもしろく無かったですな。ルール的にはけっこう真っ当らしいんですがね。ベットなんかがもっと分かっていれば面白かったのか?
で、Wikipediaの記事を読んだら、駆け引きはそれほど重要な要素ではないようなことが書いてあってがっかり。まぁしかし、娯楽フィクションなんでもっと楽しませてくれよ。

ポーカー - Wikipedia
オールインのライセンス!? | PokerNews


ジェームズ・ボンド ビギニング”といった感じの『007 カジノ・ロワイヤル』ですね。マンネリ感を払拭する意味合いでも、流行に乗った原点回帰はいい考えだったんではないかと。けっこうフレキシブルだね、007製作委員会も。

飄々としていない冷徹に真摯な若かりしジェームズ・ボンドはなかなかいい感じ。不安要素は、これから先のダニエル・クレイグがどれだけ軽やかさを演出できるかだけ、って思えるくらいに今回の才気溢れる若き諜報員は似合ってました。
腹がぽっこり出ているような感じだったのが気になりましたが。

実はボンドシリーズにそれほど思い入れは無いので、誰が主役をやろうとそれほど気にはしてなかったんですけどね。まぁ、ユアン・マクレガーはあり得無いだろうと思ってましたが。
次も当然ダニエル・クレイグだよね。


カードゲームで大金を作ろうとする悪い組織の男をこらしめてやろうとしたジェームズ・ボンドがあたふたする話。


けっこう見所のはずのポーカーがイマイチだった以外は、けっこう満足できる娯楽アクション大作。まことに007らしく、それほど頭を使わずとも楽しめるエンタテインメント作品に仕上がっていましたよ。
『YAMAKASI』もかくやという猿のように高所や建物内外を飛び跳ねる冒頭の追跡劇は見入りましたし、退屈させないためか上手いタイミングで差し込まれる短いアクションシーンもいい感じ。流石だね。

正直なところ最後のほうは気力が続かなくて、もうそろそろ終わってくれんかな、とも思っていたんですが……まぁまぁ、ね。おもしろかったね。


で、ポーカーなんですけどね。
駆け引きでね、一回くらいギリギリのところでさ、降りたりするシーンがあったらかなり違ったと思うんですけど。どの勝負でもボンドと敵キャラの2人がつっぱって、そりゃ当然片方が勝って片方が負けると。で、話の流れからどっちが勝つか負けるかなんて分かるしさ。それならそれで、それでも尚、っていうような緊迫感がほしかったよなぁ。


そこで、前回記事にした『マルドゥック・ヴェロシティ』の前作であり続編である『マルドゥック・スクランブル』。
これのポーカー勝負は凄かった。なんでこんな近未来SF作品で血反吐を吐くようなポーカー決戦が繰り広げられるような物語になってしまうのか、驚くと同時に堪能したわけです。

心の底に虚無を湛える仕事人。けっこう007にも通じるハードボイルド。
やっぱ時間をつくって再読しないとなぁ。


そういえば“スプレンディッド”ていうホテルが出てきたけど、それは本当にあるのか、ダニエル・クレイグが出てるからのネタなのか。
それとオープニングの乳首にクラブはどんなセンスなんだと笑いましたよ。

『マックス!!!鳥人死闘篇』
『YAMAKASI』よりはこっちか。
建築中のビルとか走り回るし。

『プレスリーVSミイラ男』がシネマスコーレで2月24日公開

502 Bad Gateway

名古屋で公開してくれるのは嬉しいけど、すぐDVDが出そうな遅さだね。
予告を観て驚いたのが、原作がジョー・R・ランズデール。
ランズデール!?
期待してもいいかな?

『モンスター・ドライヴイン』
ボトムズ』なんかしか知らないヤツは読んで驚け。

試練 と 有用性

マルドゥック・ヴェロシティ
全3巻
著者:冲方丁
ハヤカワ文庫JA

サイボーグ009』の方々に割り振ってみようと思ったけど半分くらい上手くいかなかった。


まぁ……やっぱ期待はしすぎていたかもしれない。
3週間連続刊行ってのも、3ヶ月連続刊行の前作と比べると、1ヶ月待たせて尚満足させる力は持っていないという判断だったのでは、という穿った感想も持ってしまう。
これは勝手な価値観だけど、ライトノベルのレーベル出ていたら質の高い作品だと感じたと思うんだけど、ハヤカワ文庫で読むとどうも……。


という『マルドゥック・ヴェロシティ』の3冊の簡単な感想。
面白いですけどね、読みにくいですよね、これ。

童顔=茶目っ気たっぷりの笑顔/短いブロンド/シャツをまくった肩に、陸軍機甲歩兵が好みそうなドクロの刺青。

空間の一部が歪む/何かが身を起こす――にわかに大きな犬が現れる。

数式か!
いや、分かるけどね。フツーの文章じゃいけなかったのかなぁ。「空間の一部が歪んで何かが身を起こしたと感じた瞬間、大きな犬が現れる」とかじゃまずいのかな?


冲方丁だから敢えて思うけど、こんな作品こそさっさとアニメでやったらいいのに。『マルドゥック・スクランブル』をアニメ化する前にさ。並列記法とでもいうの? これ。映像のように画的な情報を文字で素早く渡したいという意気込みは分かるけどさ、別に小説でやんなくてもいいじゃん。
冲方丁なら漫画やアニメなんかの小説以外での作品の発表手段があるんだからさ、ね。先にアニメ化でもして、アニメで説明し切れなかった裏設定なんかを上手く物語りに盛り込んだノベライズを後から発表したほうが良かったんじゃないの?


そうだよね、物語の途中でもっと上手に事件の真相を語ることはできなかったのかしら。なんか日ごろの掃除をサボっていたせいで、年末に慌てて大掃除をしましたっていう印象の最終巻終盤。はっきりいってこの作品を読んでいて、オクトーバー一族とかネイルズ・ファミリーの家庭の事情なんかにさっぱり興味は持てなかったんだけども。それはもう、いっそのこと掃除なんかしないで年を越してしまってもいいんじゃないの、と思ったくらいに。スピンオフっぽい小説とかアニメ化した時とか“マルドゥック市完全読本”とかで語ってくれても良かったよ、こんな細かなこと。


全体的に消化不良というか、どうでもいい感じ。


戦闘中に死ぬのはカトル・カールの変態ばかりで、09の面々は適当ないざこざで散っていってしまうしね。“サイボーグ忍法帖”みたいなものを期待してしまったのがいけなかったのかもしれないけど、これだけ戦闘シーンがあるんだからもう少し肉弾戦によったドラマの進行があってもよかったと思うよ。
なんか戦闘がね、キャラ紹介のためだけにあるような感じなんだよね。キャラ小説としては正しいんですが。なんか見開きにカラーページを用意して『ロードス島戦記』のような登場人物紹介の絵を乗せないのが不思議。昔の日本人作家のハヤカワ文庫って巻頭にカラーページあったのにね。寺田克也のジョーイやクルツを見たかった。


とまぁ文句たらたらですが、そこそこ楽しく読んだのも確かでして。
登場人物は魅力的で、ボイルドとウフコックの希望と挫折だけの物語だと割り切ってしまえばこれはこれでいいんじゃないかとも思います。ナタリアもクリストファーもラナもフリントもニコラスも末節の賑やかしとして割り切ってしまえばね。
キャラ萌えを求めようにもこの作品で消えてしまう方々が多くて困ってしまうんですが。


でも、あまりにもボイルドとウフコックがぶれないところが、不満でもあり満足でもある微妙な感じ。


あとイヤだったのが、あとがきで苦労自慢をすること。
そんなことどこかのインタビューとか対談とか、それこそ“マルドゥック市完全読本”とかでやってほしい。『バスタード!』なんかもあのコミックスのあとがきの弱音が鬱陶しくなって読むの止めちゃったからなぁ。だからどうしたつまらなければどれだけ苦しんだって関係なんだよっていうか苦しんだことをアピールすれば同情して楽しんでもらえるとでも思ってるのかとか不快なことを思ってしまう。
今度からはちょっと控えてほしいですよ。


この作品の有用性は次の作品で試されるのかな?



http://mardock.jp/
ニュースもまったく更新が無く微妙な感じ。
ていうか寺田克也ではなく村田蓮爾がキャラデザなのも微妙だし、バロットが林原めぐみなのも微妙。それよりなにより制作がGONZOかよ。
期待はしないほうが吉かな。


冲方丁×ソエジマヤスフミ×村濱章司(全五回、第一回)
マルドゥック・スクランブル』のアニメは“ラブロマンス”らしいですよ?
さらに微妙な感じ。

硫黄島 と 兵士

硫黄島からの手紙
監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙
   井原剛志
   二宮和也
   加瀬亮 他
2006年/アメリカ/141分

なにが悔しいかといって日本でこんな戦争映画を今まで撮ることが出来なかったということですよ。あっけらかんとただの国家どうしの殺し合いを描いて、単純なお涙頂戴に流れない戦争映画。説教臭くも無く、押し付けがましさも無く、殺したり殺されたり生き残ったりする人々がスクリーンに現れる。
高揚感も悲壮感も無いのがいい感じ。まぁこんなもんだよ、人生って。


というわけで観たのが『硫黄島からの手紙』。日本から見た硫黄島ってやつですよ。
しかし自国が負けた戦争を度々映像化したりされたりしては、その度にいちいち感動している日本って変な国なんじゃないかと。なんか外から見たらオナニーっぽくて気味悪いんじゃないかとさえ思う。どう思われてるんだろう、実際のところ。

日本はあの戦争を変な方向へ美化していったのがマズかったんじゃないか? 結果だけを語り継いでいるようなところがさ。


日本側の視点ってことですが、あの絨緞爆撃はイヤだね。圧倒的。ホント勝てる気がしねぇ。荒涼とした風景。海を埋め尽くすほどの艦隊が見せつける歴然とした戦力差。水も弾薬も無くなる絶望感と無力感。どうやって耐えたんだろうかと思うと、なんか呆然としてしまいます。

登場人物は思っていたより魅力的でした。そういえばバロン西って硫黄島にいたんだよなぁ、と映画を観て思い出したり。渡辺謙の存在感や井原剛志の清々しさはイイ感じ。二宮和也はちょっと儲け役かな。結婚して子供がいるような役だったのが意外でした。

映画を観た後、細かいところを知りたくなりましたよ。
硫黄島の戦い - Wikipedia
栗林忠道 - Wikipedia
西竹一 - Wikipedia

父親たちの星条旗』に比べると、とっても単純な構成の映画でした。ちょっと驚いたですよ。プロローグが現代だったんで、前と同じように過去語りみたいな感じになるのかと思ったんですが、フツーに戦争が進行していきましたね。栗林中将が硫黄島に着任してから没するまでの話。

兵士たちの戦後の人生までもいちいち描いた『父親たちの星条旗』にくらべると随分あっさりしてましたね。

でも、アメリカの戦後から語られる、俺たちは英雄なんかじゃなかったんだ、っていうのと、日本の戦争中を描いた、そんな最中に良いも悪いも考えられねぇよ、ってのがちょっと面白い対比でした。2作品をあわせて思うとなかなか巧く構成されてますね。これはやっぱりどっちも観ておいたほうがいいんじゃないかと。


父親たちの星条旗』では戦争で生き残ったのが父親で、『硫黄島からの手紙』では戦争で命を落としたのが父親。
アメリカでは手紙は兵士に送られ、日本では兵士が手紙を送る。
両方とも国威のための旗が揚げられる。
硫黄島の戦い、ということ以外ではあまりつながりのない作品に見えましたが、やっぱり巧くできてるね。


同様なのは、抗いきれない大きな流れに翻弄される個人が、必死に信念のもと折り合いをつけながらも生きていこうとする姿が描かれているところ。戦争を通して描かれることでそれが際立っていますが、特殊な状況だったからということではなく、今の自分に置き換えてみることが大事だなと思ったりしました。


まぁしかし、こういう映画を観れば観るほど、戦争を経験してない自分が何かを語る資格、戦争の無い世界を願う資格すら無いような気がしてきます。

なんかサボってしまった。

そういうシーズンということで、酒を飲んで家に帰るとパソコンに向かう気などまったく起きないですよ。しかも体調悪かったしね、今週。腹具合がずっと悪くて、あの生牡蠣を疑ってみたり。単純に飲みすぎなんだろうけども。

でも昨晩の豆腐と鳥の肝の刺身は美味しかったなぁ。